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東京地方裁判所 平成12年(ワ)478号 判決

反訴原告

揚静林

反訴被告

政和自動車株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは連帯して原告に対し、三三八万七九三七円及びこれに対する平成一一年二月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その一を被告らの、その余を原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは連帯して原告に対し、二一三九万五八五八円及び内二一二四万八四三九円に対する平成一一年二月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、タクシーの乗客が、乗車中に運転手の前方不注視による急制動により傷害を負ったとして、運転手に対して民法七〇九条に基き、タクシー会社に対して自賠法三条及び七一五条に基き損害の賠償を求めた事案である。

なお、立証は、記録中の証拠関係目録記載のとおりであるからこれを引用する。

二  争いのない事実等

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成九年八月四日午後六時ころ

(二) 場所 東京都台東区東上野六丁目一番二号先路上

(三) 事故車両

普通乗用自動車 (足立五六い三六五〇、タクシー、以下「本件タクシー」という。)

運転者 反訴被告山田直武(以下「被告山田」という。)

保有者 反訴被告政和自動車株式会社(以下「被告会社」という。)

同乗者(乗客) 反訴原告(以下「原告」という。)

(四) 事故態様

原告は、台東区役所の前の浅草通りで、被告会社の従業員である被告山田の運転する本件タクシーに乗車し、その乗車中に、本件事故現場付近で、本件タクシーの前を走行中の別の普通乗用自動車が対面赤信号にしたがって停車したが、被告山田においてその発見が遅れ、急制動を掛けた。

(五) 責任原因

(1) 被告山田は、民法七〇九条に基づき原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

(2) 被告会社は、加害車両の保有者であり、且つ、被告山田の使用者であって、被告山田は、被告会社の事業の執行につき本件事故を惹起せしめたのであるから、運送契約上の債務不履行並びに自賠法三条及び民法七一五条に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

三  損害についての原告の主張

原告は本件事故により、頸椎捻挫、腰椎捻挫、及び腰椎々間板ヘルニアによる左根性坐骨神経痛等の傷害を負った。これにより生じた損害は次のとおりである。

1  治療費関係 金二〇万二二六九円

(一) 診断書料等 合計四万六九四〇円

但し、右は順天堂医院における診断書料等である。

(二) 治療費等 三万四二〇九円

但し、右は日本赤十字社医療センターにおける治療費。

(三) 入院雑費 三万三八〇〇円

一日一三〇〇円×二六日三万三八〇〇円

(四) 通院交通費 八万七三二〇円

(1) 日本医科大学附属病院への通院交通費(タクシー利用)

四〇〇〇円(往復)×二日=八〇〇〇円

(2) 永寿総合病院への通院交通費(タクシー利用)

一三二〇円(往復)×二一日=二万七七二〇円

(3) 順天堂医院への通院交通費(タクシー利用)

三二〇〇円(往復)×一四日=四万七六〇〇円

(4) 日本赤十字社医療センター(地下鉄及びタクシー利用

二〇〇〇円(往復)×二日=四〇〇〇円

2  休業損害等 六七五万円

(一) 原告は、本件事故当時、韓国クラブ「明月館」でホステスとして働いており、月収は約五〇万円程であった。ところで、原告は、平成九年二月までは右「明月館」で休みなく働いていたが、後述する韓国の貿易関係の仕事のため、平成九年三月から同年六月迄の間は店の許可を得て仕事を一時休ませてもらっていた。それゆえ、平成九年三月から五月は「明月館」で働いていないが、同年六月後半ころには貿易関係の仕事が一段落したことから、「明月館」で再び従前どおり働くようになり、貿易関係の仕事があるときだけ店を休ませてもらっていた。

このように、原告は平成九年六月後半から再び「明月館」で働いていたが、貿易関係の仕事があったため、平成九年六月、七月の「明月館」での就労日数は少ないものの、平成九年七月後半からは、貿易関係の仕事も昼間だけで十分に対応することが出来るようになったので、平成九年七月後半からは本件事故の直前まで毎日店に出勤していた。

したがって、原告は本件事故がなかったならば、「明月館」でフルに働くことができ、五〇万円程度は収入を得られたことから、本件事故発生日(平成九年八月四日)から前記症状固定日(平成一〇年五月八日)までの九箇月間、前記傷害により右仕事に従事することができなかったことによる右休業損害は頭書金額となる。

(計算式)

五〇万円×九箇月=四五〇万円

(二) また、原告は、右ホステスの仕事のほか、本件事故当時、下水管の修理のためのガラス生地やロボットに関する日韓間の貿易関係の仕事に携わっていた。

すなわち、原告は、日本法人である株式会社パイプシステムが下水管の修理のために用いるガラス生地を製造していたことから、同社と協力して、右生地に関して韓国法人である導財貿易株式会社と技術提携して、韓国においてガラス生地を製造するとともに、右製品の日本への輸出・販売を計画し、各社間の契約締結について仲介・斡旋等に携わっていた。そして、原告は、ガラス生地の製造及びその技術提携に関し、株式会社パイプシステムと導財貿易株式会社を結び付けるとともに、導財貿易株式会社と日本への輸出先として大崎建設株式会社の関連会社である株式会社武永社との間のガラス生地の輸出入契約を締結するための仲介及び通訳等を行っていた。ところで、原告は、導財貿易株式会社と武永社との間の右仲介及び通訳の費用として、日本第三通信株式会社(同社は、通信関係の業務を行うとともに、下水道関係の会社の組合を組織、管理等する業務も行っており、右契約に関与していた)から、月二五万円を受け取っていた。また、導財貿易株式会社からも、導財貿易株式会社と武永社との間の右契約が成立した時には、右契約による導財貿易株式会社の売上のうち、二〇パーセントを原告が受けとることになっていた。

導財貿易株式会社と武永社との契約の交渉は、原告の仲介により順調に進んでいたが、本件事故により、長期にわたって原告が右契約の仲介・通訳等をすることができなくなったため、右契約の話が中断してしまい、導財貿易株式会社と武永杜はやむを得ず、原告を通さずに直接契約の交渉をすることになった。そのため、原告は導財貿易株式会社と武永社間の仲介・通訳等による前記収入がなくなったばかりか、導財貿易株式会社から右契約による利益のうちの二〇パーセントが原告に支払われるとの合意も反故になってしまった。

その他、下水道の修理のためのロボット(株式会社パイプシステムの代表者が特許権を有していた)についても、前記ガラス生地と同様に、株式会社パイプシステムと韓国法人TAP電子産業株式会社との間の技術提携及び右ロボットの日本への輸出等について、原告が斡旋・仲介しており、右TAP電子産業株式会社から利益の一部を受けることになっていたが、右合意も本件事故により反故になってしまった。

原告の右損害額を算定することは困難であるが、原告が本件事故当時、仲介・通訳として、少なくとも月二五万円の収入を現実に得ていたのであり、本件事故がなければ、これを得られたはずであるから、症状固定までの九箇月間の休業損害として右金額を請求する。

(計算式)

二五万円×九箇月=二二五万円

(三) よって、原告の本件事故による休業損害は、頭書のとおり、前記(1)の四五〇万円及び(2)の二二五万円の合計六七五万円である。

3  子の保育費等 七一万五〇〇〇円

原告には、現在五歳になる子小針蓮雅(平成六年八月九日生、本件事故当時は二歳)がおり、原告が監護・養育しているところ、原告は本件事故により入院していた期間はもとより、通院期間中も腰痛等の症状がひどく(動き回れる状態でなかった)、子供の世話等のみならず、家事さえもできる状態でなかったため、平成九年一二月まで家政婦を雇わざるをえなかった。

右費用は、一箇月当たり一五万円であり、合計七一万五〇〇〇円である。

4  後遺障害による逸失利益 七一一万一一七〇円

(一) 原告は、前述したように症状固定後の現在も、腰痛、左大腿及び下腿外側の疼痛、しびれ等があり、立位、歩行、産位、中腰等の動作で増悪し、特に一〇分以上の歩行では、左下肢痛が増強し、疼痛による跛行を呈している。また、重い物を持つこともできず、雨の日や寒い日には首や肩、腰に痛みが生じるばかりか、しばしば激しい頭痛等におそわれ、その痛みのために喋ることすらできなくなる。原告は、右後遺障害のため、立ち仕事はもちろんのこと、長時間座っていることもできない状態にあり、一日に四、五時間程度の仕事をするのがやっとの状態である。原告は平成一〇年八月からホステスの仕事を再開し、現在は右収入で生計を立てているが、右後遺障害による腰痛等のため、四、五日働いては二、三日休むといった状態が続いている。

(二) ところで、右後遺障害が本件事故によるものであることは医学的にも明らかであり、後遺障害別等級表の第一二級一二号「局部に頑固な神経症状を残すもの」(労働能力喪失率一四%)に該当するというべきである。また、労働能力の喪失という点からも、前述したように原告の症状からみて、労働能力喪失率は少なくとも一五%を下るものではない。しかし、右後遺障害につき自賠責において後遺障害等級一四級一〇号「局部に神経症状を残すもの」と認定されたことから、とりあえず労働能力喪失率五%を前提とする。これに、基礎収入を原告の前記の月額七五万円(ホステスとして月額五〇万円、仲介及び通訳料として月額二五万円)、労働能力喪失期間を症状固定時(三五歳)から、労働可能年齢である六七歳までの三二年間とし、これに対応するライプニッツ係数一五・八〇二六を乗じて中間利息を控除して、算定すると頭書金額となる。

(計算式)

(75万円×12箇月)×5%×15.8026=711万1170円

5  入通院慰謝料 一五〇万円

原告は、前述したように、本件事故後永寿総合病院において約一箇月入院し、その後同病院及び順天堂医院において平成一〇年五月八日まで約八箇月にわたり通院しており、右入通院慰謝料は金一五〇万円を下るものではない。

なお、被告らは、原告が永寿総合病院で治療を受けるにあたり、治療費は全額支払うと言いながら、同病院からの請求に対して支払いを拒み、治療を中断させ、かつ治療中である原告を困惑させ今後の治療について強い不安を抱かせたばかりか、原告が同病院を退院した直後に甲第八号証の通知をなし、原告がまだ治療中であるにもかかわらず、原告の在留資格を証明する書類として外国人登録証明書の写しまでも要求する(何故、在留資格を証明する書類が必要か全く不明であるところ、右要求は、原告が不法滞在者であるとの疑いに基づくものと考えられ、治療中の原告に対し著しい不快感を与えるものである)等その対応は極めて不実であり、加害者として被害者に対する誠意を全く欠くものである。

のみならず、反訴被告らは治療中の原告に対して突然債務不存在確認の本訴を提起したうえ、自賠責における後遺障害の認定に従い和解による早期解決をするとして、原告側に自賠責保険の被害者請求を促しながら、後遺障害の認定がされると右後遺障害認定を争い、何ら落ち度のない被害者である原告に必要以上の精神的、経済的負担を強いている。

慰謝料を算定するに当たっては、右事情も酎酌されなければならない。

6  後遺障害慰謝料 二〇〇万円

原告は、前述した後遺障害により、現在も腰痛等に苦しめられており、後遺障害慰謝料は金二〇〇万円を下るものではない。

7  弁護士費用 二九七万円

前記1ないし6の各損害金の合計(一八二七万八四三九円)を基準に日弁連の報酬基準により弁護士費用(着手金及び報酬)を算定すると、着手金九九万円、報酬一九八万円となる。

8  損害額合計 二一二四万八四三九円

但し、前記1ないし7の合計金額

9  損害の填補

原告は、平成一一年二月二五日、本件交通事故に基づく損害賠償金の一部として、自賠責保険(富士火災海上保険株式会社)から金一五一万一七〇六円の支払いを受けた。なお、右既払金については、民法四九一条により、まず不法行為時である平成九年八月四日から右支払日である平成一一年二月二五日までの原告の損害額の合計額(二一二四万八四三九円)に対する年五分の割合による遅延損害金(五七〇日分、一六五万九一二五円)に充当する。

四  争点

本件事故によって原告が負った傷害及び後遺障害の有無・程度、原告の休業損害ないし後遺障害による逸失利益を算定する際に基準とすべき基礎収入額。

第三裁判所の判断

一  本件事故によって原告が負った傷害及び後遺障害の有無・程度

1  本件事故により、原告は、事故当日及びその翌日、日本医科大学附属病院において治療を受け、その際、「頸椎捻挫、頭部・左肩挫傷」と診断された(甲三号証の一)。その後、永寿総合病院で治療を受け、「頸椎捻挫、左肩打撲、腰椎捻挫」の診断を受けた(甲第四号証の一)。

2  被告らは、本件事故が衝突ないし追突を伴うものでなく、受けた傷害は軽微なはずであると主張している。しかしながら、タクシーの乗客はシートベルトをしないこともあり、タクシーの急制動によって、思わぬ傷害を負うこともあり得るところである。本件においては、右のように、原告は医師による診断を受けており、甲第一二号証ないし第一六号証によっても、それぞれの病院において、傷害の治癒に必要な治療が行われていると認められるのであり、被告らのこの点についての主張は認められない。

3  また、後遺障害についても、平成一〇年五月八日、順天堂医院で後退障害の診断を受け(乙第八号証)、腰椎々間板ヘルニアにつき(腰椎捻挫に伴う、左下肢痛、しびれの神経症状について)自賠責において後遺障害等級一四級一〇号と認定されている(乙第一七号証、甲第二一号証)。被告らは、後遺障害の存在についても争っており、確かに、原告の症状は当初から頸椎に関するものに集中していた感があることは否定できないもので、この点について被告らが本件事故との因果関係を問題にするのは理解できないではない。しかしながら、この点も、症状改善しないことから順天堂医院の診察を受け、これが、後遺障害の発見につながったとも評価できるのであり、被告らの提出の甲第二〇号証はあるが、本件においては原告を現実に診断した医師の判断が尊重されるべきであり、後遺障害についての被告らの主張も認められない。

4  原告は、原告の後遺障害が本来は一二級一二号「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当すると主張するが、この点は、本件の証拠からはこれを裏付けるような証拠はなく、労働能力喪失率は五パーセントと認める。なお、労働能力喪失期間についても、神経症状が主たるものであることを考慮して五年間について認める。なお、被告らは、原告の心因的な影響を指摘するが、本件においては、いまだ治療期間が不相当に長期に渡っているとはいえず、この点も損害の算定には考慮しない。

二  原告の基礎収入

1  原告は、本件事故当時、下水管の修理のためのガラス生地やロボットに関する日韓間の貿易関係の仕事に携わっていた旨、詳細に主張するが、これを裏付けるものとしては原告本人の陳述書である乙第二二号証と乙第一一号証しかない。しかし、乙第一一号証も事故後に作成された報告書というべきもので、証拠価値が高いものでない、また、売上の二〇パーセントもの利益を取得する契約について事前の書面が何ら作成されていないことは、このような仕事に携わっていた事実自体について疑念を生じさせるものといわざるを得ず、このような事情を総合的に考察すると、この関係についての収入を認めることはできない。

2  また、原告は、本件事故当時、韓国クラブ「明月館」でホステスとして働いており、月収は約五〇万円程であった旨主張するが、この点ついても、これを立証する証拠は何ら存在しない。

3  結局、原告の収入を証明する証拠としては、これを一五〇万四二七五円とする乙第一六号証しかない。しかし、原告が子供と一緒に生活していたことを考えると(乙一三号証及び第一四号証)、このような低額の収入で生活できたかどうか疑問もある。本件においては、このような事情を考慮して平成九年度の賃金センサスの女子全年齢平均賃金である三四〇万二一〇〇円を基礎収入として認定することとする。

三  損害

1  治療費関係 金二〇万二二六九円

(一) 診断書料等 合計四万六九四〇円

但し、順天堂医院における診断書料等。乙第九号証及び第一〇号証により認める。

(二) 治療費等 三万四二〇九円

但し、日本赤十字社医療センターにおける治療費。乙第一九号証及び第二〇号証により認める。

(三) 入院雑費 三万三八〇〇円

一日一三〇〇円×二六日三万三八〇〇円

(四) 通院交通費 八万七三二〇円

(1) 日本医科大学附属病院への通院交通費(タクシー利用)

四〇〇〇円(往復)×二日=八〇〇〇円

(2) 永寿総合病院への通院交通費(タクシー利用)

一三二〇円(往復)×二一日=二万七七二〇円

(3) 順天堂医院への通院交通費(タクシー利用)

三二〇〇円(往復)×一四日=四万七六〇〇円

(4) 日本赤十字社医療センター(地下鉄及びタクシー利用)

二〇〇〇円(往復)×二日=四〇〇〇円

本件の傷害の内容が腰椎捻挫であり、歩行にある程度の困難を生じさせたものであることを考慮し、タクシー使用の相当性を認める。

2  休業損害 九八万六〇五六円

先に述べたように、基礎収入を平成九年度の賃金センサスの女子全年齢平均賃金である三四〇万二一〇〇円とし、原告の症状等からすると、本件事故発生日である平成九年八月四日から、症状固定日平成一〇年五月八日までの二七八日について、全期間について一〇〇パーセントの休業損害を認めることはできないので、当初の二箇月間(六〇日)について一〇〇パーセントの損害を認め、次の二か月は五〇パーセントの損害、残りの一五八日は一〇パーセントの損害を認める。

(計算式)

〈1〉 340万2100÷365=9320円

〈2〉 9320円×100%×60日=55万9200円

〈3〉 9320×50%×60日=27万9600円

〈4〉 9320円×10%×158日=14万7256円

〈5〉 〈2〉55万9200円+〈3〉27万9600円+〈4〉14万7256円=98万6056円

3  子の保育費

子の保育費について、原告の傷害の程度、原告の就労していたとしても、それなりにかかる費用であることも考慮し、当初の二箇月分についてのみ認める。一箇月当たりが一五万であることは乙第一二号証により認める。

4  後遺障害による逸失利益 七三万六四五二円

原告の基礎収入を、平成九年度の賃金センサスの女子全年齢平均賃金である三四〇万二一〇〇円とし、これに労働能力喪失率五パーセント、労働能力喪失期間五年間に対応するライプニッツ係数(四・三二九四)により中間利息を控除して算定する。

(計算式)

340万2100円×5%×4.3294=73万6452円

5  入通院慰謝料 九〇万円

原告の負った傷害の内容、治療期間等を考慮すると、入通院慰謝料としては、頭書金額が相当である。

なお、原告は、永寿総合病院での治療費の支払に関する経緯や、原告の在留資格を証明する書類として外国人登録証明書の写しまでも要求したこと(甲第八号証)、また、原告に対して債務不存在確認の本訴を提起したうえ、自賠責における後遺障害の認定に従い和解による早期解決を示唆して自賠責保険の被害者請求を促しながら、後遺障害の認定がされると右後遺障害認定を争ったことを慰謝料の算定にあたって酎酌すべき事情として主張する。

確かに、被告らの訴訟前の対応には、やや不適切と思われる点もないではないが、支払側として、算定の根拠とすべき資料の提出を求めることは不当とはいえず、また、傷害や後遺障害の有無を争うことについても、原告の治療の経緯等には原告の心因的な影響が窺われることもないではなく、これらの事情を考慮すると、訴訟行為自体を不当なものと評価することはできない。

6  後遺障害慰謝料 一〇〇万円

原告の後遺障害の程度等を考慮すると、後遺障害慰謝料としては頭書金額が相当である。

7  弁護士費用 四二万円

前記1ないし6の各損害金の合計(四一二万四七七七円)を基準に日弁連の一〇パーセントが本件の弁護費用として相当である。

8  損害額合計 四五四万四七七七円

但し、前記1ないし7の合計金額

9  損害の填補

原告は、平成一一年二月二五日、本件交通事故に基づく損害賠償金の一部として、自賠責保険(富士火災海上保険株式会社)から一五一万一七〇六円の支払いを受けた。なお、右既払金については、民法四九一条により、まず不法行為時である平成九年八月四日から右支払日である平成一一年二月二五日までの原告の損害額の合計額(四五四万四七七七円)に対する年五分の割合による遅延損害金(五七〇日分 三五万四八六六円)に充当する。残りを損害金元本に充当すると三三八万七九三七円となる。

第四結語

よって原告の請求は三三八万七九三七円及びこれに対する自賠責保険金支払の日である平成一一年二月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余の請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用について民訴法六四条、六一条を、仮執行宣言について同法二五九条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 馬場純夫)

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